最低限の仕事
昨年の宝塚記念の3着の内容に、自信というか、まだ伸びていく可能性を実感できたキタサンブラックに乗る武豊騎手は、北村、横山ら実績のある騎手が紡いできた上手な競馬で勝負する型を、少しずつアレンジしていった。
スローペースを作って押し切る形は、必ずしも自分の形ではない。
大阪杯は、マルターズアポジーが形だけは大逃げをとったが、中身は有馬記念に少し毛が生えた程度の平均ペース。
実績からいって、あっさりの直線序盤先頭からの押し切り勝ちとなったが、春天は流れ無視のロングスパートであった。
が、ジャパンCを逃げ切れるような馬で、上がり勝負にもならない展開。
総マークの宝塚で59秒を切る前傾ラップでの逃げから、大いに見せ場を作った経験は、以後の不沈艦伝説開演の序章となった気もする。
あれがあったから、この勝ちがある。
自信の根拠は、4歳秋以降の勝ち星ではなく、まだ完全体になる前のブラックの伸びしろにあったのではないだろうか。
今までと違う何かを教える仕事を得意とするのが、アエロリットの手綱を任される横山典弘騎手である。
この方、意外と東京マイルは得意で、GⅠ戦も数多く制している。
クロフネ産駒ではクラリティスカイだとか、ヴィクトリアマイルのホエールキャプチャなど、正攻法で抜け出すことが多かったが、この2頭もそうで、今年のアエロリットでも、ややハードな競馬を直前のレースで課して、この舞台に合わせるような準備をしているケースがまま見られる。
競馬が上手なアエロリットの場合、近走出負けが続いていたことで、桜花賞は追い込みをあえて選択したようなところもある。
前記の成功例に倣って、前掛かりに東京マイルを押し切る競馬で制したのは、彼自身、上手な競馬をして勝てるのであれば、それの方がずっと馬にも楽であるということを、長年の経験や本質的な騎乗スタンスの部分でも、確信をもっていたはずだ。
この二人に共通する「流れに対する戦略」の的確さは、同年代はもちろんのこと、諸先輩方の狡猾な戦いぶりを間近に見てきた蓄財の副産物である。
強かで、実に理に適った騎乗には、中堅、若手の生きた教材としての価値が凝縮されている。