秋華賞2016 回顧

道中の位置取りを見ながら、ビッシュが普通の競馬をしそうなこと、ジュエラーは外に出さないだろうことが見えたことで、存外のスローに掛かりつつも、こういうのをなだめるのは巧い福永祐一の真骨頂がフルに発揮できる中団外目の待機であったヴィブロスの好走は、ほぼ確定的であった。

だったら、エンジェルフェイスが1角辺りでびっくりするほど首を何度も上げていたような流れだから、再び先手を奪ったクロコスミアも十分に再度の穴好走は期待できたが、そこはGⅠ。

やや大物の少ないメンバー構成の影響か、差し馬人気ではあったものの、理想的な内残り馬場の恩恵を受けたのは、伯母を亡くして一族の世代替わりが起きようとしているカイザーバルだけだった。

それとて、好位の外にいたわけで、全体の流れが平均的な、本来の秋華賞並みの流れになったことで、実際のところはそれほど荒れるような展開ではなかったように思う。

パールコードは先団より後ろで、人気勢よりは前という流れにマッチした位置取り。

しかし、ダービージョッキー・川田将雅の好アシストを上回ったのが、先述の勝ち馬コンビである。

差し馬が中団に構え、逃げるべき馬が然るべき流れを作った時に、ある程度人気をしているヴィブロスのような馬なら、よほどの不幸なアクシデントに見舞われない限りは力を発揮できそう、もしかすると、ビッシュ、ジュエラーの良さを完璧に消せる位置につけられたから、これはもう見ているだけでいいのでは?などと思っていたら、瞬発力勝負に向いているわけではないパールコードがいい走りを見せ、その外をヴィブロスが…。

本当はガッツポーズをしたかっただろう福永騎手は、まあ、大恥をかいた2週前のことがあったから、ゴール後頬が緩んだだけだったが、正直言って、何年か一度の完璧な競馬である。

今すぐにでも家族を呼び寄せて、佐々木オーナー、友道調教師らと祝杯を上げたいくらいの気分だったろう。

だから、出来過ぎのレースを褒めすぎても仕方ない。

ゴールの瞬間頭を過ったのは、ここにも人気馬を送り込んだ藤岡厩舎の関係者の顔だったか。

ジュエラーは惜しかったのではなく、レース前にやたらとハイな状態になった彼女を優しく愛撫するデムーロ騎手の輪乗りの仕草を見た時に、これは前には行こうにも行けないなと思えた。

結果、前が縦長で、インは比較的スムーズに立ち回れそうなスペースはあったが、案の定、勝負どころでは詰まるのいうのはよくあること。

こういうミドルペースの縦長は、ちょっとレースがしにくい。前記の通り、外を回った馬の上位独占だった。

インにキレ込む、ムーアばりの騎乗を見せたが、器用に回って来られるほど上手な競馬はまだできなかった。

今日は仕方ないというところか。

内実、見せ場なしのビッシュも敗因は同じだろう。

揃いも揃って、人気馬は皆ここが6、7戦目という馬だった。

一つキャリアが多いヴィブロスは、古馬との対戦で圧倒的な結果を残している。

不利も経験し、それでも馬は気負うことなく、華奢なボディながら、人気の2頭と同等の力を秘める可能性をパドックで示した。

ビッシュの弱点は、恐らくはトータルの時計だろうと思っていたが、もっと初歩的なところで、強引にでも自分から動くことで得られなかった揉まれる経験と、スムーズにエンジンを掛けることの練習が不足していた。

横山典弘騎手は、奇しくも裏の東京メインで人気に応えたが、今でも筆者は、人気を大いに裏切ったフローラSの後方待機策は間違っていなかったように思う。

何せ、410kg台の馬体重が、フローラSの時には404kgである。

勝ちに行って、馬を壊してしまっては元も子もない。

結果、桜花賞馬がいなくなってオークス出走は叶い、馬体重もV字回復したから、ミルコ流の積極策も功を奏したが、賞金加算はできなかった。

出るには出られる紫苑Sだって、流れてくれたことで、外枠からのスタートの不利を、オークス以上の積極の捲りでカバーできた。

ビッシュの気配そのものは、2頭のステーブルメイトと一緒に同じレースに出られたことで、人気馬らしい存在感を見せる出来にあったように感じたが、何の因果か、元主戦騎手が大活躍する日に、イレ込むまではいかなかったにせよ、妙に小気味のいい歩様になっていって、スタート前はギリギリのところにいる危うい状態だった。

体はほとんど同じヴィブロスとは4kgしか多くなかったが、大物感の差で気配ではこちらに分があった。

しかし、使えるレースがそこにあったから使ってしまったがために、ここで息切れとなった可能性は否定できない。

無理がたたったことを証明するかのように、走破時計の差は0.8秒差で、上がりの差も0.7秒。

ヴィブロスが33.4秒の脚で他を圧倒したのとは対照的に、負けるためにレースに出てきたような寂しい結果に終わってしまった。