ナスルーラ系の特徴

いよいよ、根幹種牡馬の解説も大詰め。
よりダイレクトに、近代競馬に最新鋭のスピード能力溢れる才能を補給する役目を仰せつかった、その最古参こそ、ナスルーラと直系子孫たちなのです。
詳細は後述するとして、名馬ネアルコが果たした偉業が、セントサイモン時代の終焉を早めたとするのが、20世紀中期以降の血統世界の史実。
意味の分からない話でしょうが、徐々に、その謎が解けていきます。

ナスルーラ

『1940年、アイルランド産。
長距離戦はともかく、英・ニューマーケット競馬場において、日本でいうところの太平洋戦争中に、短距離から中距離まで多様な距離に対応し、英チャンピオンSを制した一流のスピード馬。クラシックでは出番はなく、無敗馬でもないが、14戦不敗のネアルコが残した傑作とも言われる。故郷で生まれたも直仔もいるが、USAブランドの快速種牡馬の印象が強い。』

父はネアルコ。母はムムタズビガム。母父はブレニムという血統。
代表種牡馬としてはボールドルーラーが有名ですね。

現在の日本の競走馬の大半はノーザンダンサー系、ミスプロ系、ヘイルトゥリーズン系、そしてこのナスルーラ系といった系統に分かれています。

母父に米三冠馬・ウォーアドミラルが入ったネヴァーセイダイが英ダービー、セントレジャーを快勝して、ほぼ同時期に、米二冠馬で同期の名馬スワップにケンタッキーダービーで敗れたナシュアが登場している最初のキャンペーンによって、その血の有用性はあっさり証明されました。
先述のミスタープロスペクターの母父に当たるのがこのナシュア。
灰色の幽霊の異名をとったネイティヴダンサーが祖父であると同時に、この快速の血を受けたミスプロの存在も、ナスルーラあってのもの。

北米テーストに染まれば、必ず、ダートへの適応力が問われていきますが、押し並べて、有益な仕事をする末裔ほど、どっちに振れるか本当のところは分からないところが魅力。
この後触れるネヴァーベンドは、自身がダートの名馬ながら、欧州圏のトップホースに上り詰めた芝の王者・ミルリーフを送り出し、この子孫もまた色々な性質を持った馬が出るという具合。
配合相手によってというより、自身の体つきや性格が適性に影響を及ぼす雰囲気があって、案外、他の系統からの干渉を受けづらいというような性質が、主な特性となります。
(長所:スピードマッチ歓迎/派手な競馬をする馬が多い)

ナスルーラ - 気性難という伝説

ナスルーラは大変な気性難でして、周りの人達は馬から攻撃される恐れがあるほどでした。
一部の血統マニアには有名な逸話(?)でもある猫殺しのセントサイモンと同じく、何故か傘を恐れていたと言われています。

ナスルーラ系の重馬場適正

残念ながらナスルーラ系は道悪との相性があまり良くありません。
やはり重馬場や不良馬場になってしまうとデータ的にはミスプロ系のほうが好走傾向があります。
道悪になると血統に左右されやすくなるので注意しておいたほうが良いかもしれません。

ネヴァーベンドとミルリーフを解説

米クラシック好走馬のネヴァーベンドは、北米向きな配合から、ダービー<英>優勝後は好き放題だったミルリーフと、同父のマイラー・リヴァーマンが同時期に登場し活躍。
欧州圏の芝中長距離で活躍のミニ・ミルリーフの生産に成功の前者に対し、似たように中距離までのタイプを多く出した後者だから、評価は同等でもいいものの、ミルリーフの飛び跳ねるような美しい走りに魅了された人々は、ミルリーフの方を高く評価していきました。
しかし、ノーザンダンサーほどの発展はなく、重厚な性質を伝える影響で、21世紀の日本で直系の活躍はなくなり、近年は欧州圏でも衰退著しく、ナスルーラの速さを伝える限界を示した過去の産物に成り下がってしまいました。
重しにはなるので、母系での存在感はあります。

プリンスリーギフトとテスコボーイを解説

王室主催のロイヤルアスコット開催で行われる3歳GⅠ・クイーンアンSで繰り上げ優勝となったテスコボーイが輸入されて、軽く半世紀ほどが経ちましたが、1972年のダービー馬<東京優駿>・ランドプリンスが登場すると、翌々年にはダービー以外のクラシック二冠・キタノカチドキが現れ、また2年後の皐月賞勝ちのトウショウボーイは、1983年の三冠馬・ミスターシービーなどを輩出。
気づけば、ノーザンダンサー系<日本ではノーザンテースト>に先んじて、スピード競馬に持ち込む才能を続々送り込んだのが、この系統です。
プリンスリーギフト系は時間をかけて横に広がりましたが、30年もしないうちに、一つに集約されます。

1986年の天皇賞(秋)を制したサクラユタカオーが、短距離王のサクラバクシンオーとマイル王のエアジハードを送り出したことで、未だにこの系統は生き延びています。
この直系は2020年もJRA重賞を制し、異例の発展を遂げたことを再度証明。
サンデーサイレンス系が四半世紀の間重賞馬を出し続けているのと比べても、その偉大さがよくわかります。

ブラッシンググルームの出たレッドゴッド系には、バゴ産駒のクロノジェネシスが素晴らしいチャンピオン級牝馬になってはいますが、もう、海外の同系統の発展以外に希望はなさそうな状況。
大分類で残りの2系統を次のターゲットといたします。

さて、ここまで快速系統の変遷をこれまで記してきたわけですが、これから話す2大系統は、そのライン全体の特性がはっきりしているため、棲み分けはかなり判然としています。

ボールドルーラーを解説

直系では先行力が武器のダート向きが大半・母方に入るとトラックの選択肢が増える。

1954年、USA産。
米・プリークネスS勝ち馬。決して、長い距離に合う馬ではないが、短距離から中距離までくまなく勝ち星を挙げた名馬。

現役時に20勝以上挙げると、特に、スピード型では仔の代ではあまり迫力のある馬は出てこないのが普通ですが…

セクレタリアト/1970年の米三冠馬で、三冠全てレコードタイムで完勝

世界の競馬史上でも特別な存在であり、北米圏では最高クラスという名馬。三冠最終戦・ベルモントS<2020年は特殊な事情で変更>の勝ちタイムである2:24.0は、以後50年間保持される、言わば金字塔です。
ボールドルーラー系の発展に寄与したというよりは、ボールドルーラーの持つ資質を最大証明した存在と考えると、その偉大さも際立ちます。

ただ、
<重要度ではシアトルスルー>

彼は、それに遅れること7年、77年の三冠達成者にして、史上初の無敗での制覇を果たしたスーパースター。ところが、ナスルーラ系特有の代を重ねるスピード<サイクル>が早いことで、シアトルスルーから見ると、ボールドルーラーは父父父<3代父>に当たります。
そのせいか、発展させる柔軟性に富み、日本でも芝のGⅠ馬を2頭出したほか、スルーオゴールド<米ダートGⅠ7勝>、エーピーインディ<ベルモントSなど>らが活躍したことで、次代への継承ももちろんのこと、横へ枝葉を広げることに成功。
もはや、ボールドルーラー系は最後に挙げたエーピーインディの代名詞であり、コンスタントにダートの活躍馬を送り出すトップブランドを形成しています。

グレイソヴリンを解説

基本的には芝が合う系統・ダートを走る馬はボールドルーラー系と同義扱いでよし。
1948年、GB・グレートブリテン産。
ナスルーラが初期に欧州圏で残した英国調教馬。ナスルーラの仔らしく、前向きさがやんちゃレベルにまで達してしまい、2歳GⅠ<格>を1勝したのみも、能力の評価は高かったとされる。

彼の産駒からフォルティノという後継馬が登場して、催すようにように発展の下地は出来ていきますが、これまでの主要系統と比べると、広範な活躍という展開まではなく、じわじわ型でしょうか。これが父と同じ芦毛。フォルティノは晩年に来日し、孫の世代から昭和最後の大物として知られるタマモクロスが輩出して、名馬世代の一翼を担いました。

カロ/芦毛・グレイソヴリン系の北米支部設立で世界的名種牡馬に

ちゃんと調べると面白いもので、一流ちょいくらいの競走馬だったカロは、クリスタルパレスという仏ダービー馬を出したことは知られていても、傑作であるブリーダーズCマイル覇者・コジーンのインパクトと圧倒的な芦毛パワーの誇示で、すっかり無頓着になっていたのですが、半分はフランスの馬として生きていました。
ただ、前出のコジーンだけでなく、ウイニングカラーズというあり得ない強さの牝馬がUSAヒロインだったので、北米血統のイメージが強いのも事実です。
近年は、注目馬を多く出しているアンクルモー<4代父カロ>が、ナイクィストという名馬を出し、しばらくはダート向きの馬で血を繋ぐことになりそうです。

ただ、その後登場の彼の方が日本ではおなじみ。
<土着度でトニービン>

別流の欧州ラインであるゼダーンから連なる系統の出身で、自身はイタリアの名馬です。
1988年の凱旋門賞を制覇、当時すでに日本での種牡馬入りが決まっており、ラストランはジャパンC<5着>でした。
散々、憧れの欧州圏のスターホースを無節操に大枚をはたいて買い付けてきては、タンスの肥やしにするという歴史を繰り返し、相馬眼の凡庸さを世界の識者に馬鹿にされてきたのと比べ、いの一番に登場した1993年のクラシック世代から、二冠牝馬・ベガ、ダービー馬・ウイニングチケットが出現すると、日本競馬全体の流れが大きく変化。
前出のブライアンズタイムは翌年、サンデーサイレンスはそのまた次の年と、隆盛時代を築く発端は、この名馬の存在であってこそ。
産駒2頭目のダービー馬・ジャングルポケット<あのトリオ名の由来>の系統が活躍しましたが、これ以上の発展は難しそうな状況です。