高松宮記念2020 回顧

全くもって、よくわからないレースになってしまった。

また挟まれたのではなく、今度は自分が挟まれたダイアトニックには、何とも言えない部分があって、ご愁傷様としか言ってあげられないわけだが、クリノガウディーだけが見事な幻惑の逃走劇を決めたモズスーパーフレアを、ただ唯一追い詰めてきたという構図は、もはや、重馬場でなければありえなかった展開だろう。

これまでずっと、軽いレース向きに思われていたモズスーパーフレアは、34秒台の先行策であまりにも簡単な競馬にできたというか、皆が騙されたような展開で、実力派のセイウンコウセイらが後続を封じるような番手追走をしたことで、完全に外差しのイメージで乗っている差し馬勢の騎手には、追っていく手はないという隙を生んだ。

よく考えると、筆者の読み通りだったという展開ではなく、スプリンターズSで示した絶対的能力を踏まえていれば、誰かが追いかけていくだけでは到底及ばないスピードスターであることからも、雨上がりというファクターさえ、目くらましには役に立った感はある。

しかし、冷静にレースを振り返ると、まずセイウンコウセイが今一つの追撃だったのに対し、最高の強襲の流れを作ったクリノガウディーの伏兵の競馬に対し、しっかりと準備を整え、前走から挑んだ好位抜け出しの策で万全の競り落としの形を作ったダイアトニックは、ようやく前の2頭に追いついたところで、外から内に併せに行ったクリノガウディーの気の焦りに翻弄されて、モズにさえも絞られて、一旦ストップ状態だったから、ダイアトニックに加え、恐らくイメージ通りに乗れたと思う池添騎手のグランアレグリアとの際どい争いに展開していたことが推測される。

見たまんま、前日の日経賞の両者真っ直ぐ走らずで降着なしとは違い、惜しくも何ともないスライドアタックだったから、勝ててもいないし、2着でも本当はなかったはずのモズはゴール寸前まで粘らずとも勝ったことは分かっていたし、相手がダイアトニックに代わった時には、歴史的豪脚での戴冠もあっただろうグランアレグリアも残念。

勝ったのに残念、上々の古馬初戦の桜の女王も切なくなって、ダイアトニックはもっと哀れに思えるGⅠである。

それも降着の持つ無念の情があふれる結果の究極形を、この如何ともしがたい史上初の大舞台で目撃するのが、どことなく、自然な流れなのだと悲しささえ覚えた。

しかし、言い換えねばならないのもまた真実。

実力の通りに走ったモズスーパーフレアは、本来の実力を消してでも、戦い続けることによって培われたタフさの積算により、意外過ぎる舞台設定での戴冠となった。

もっともっと評価されるべき天才的なスピードの持ち主であるグランアレグリアの底力は、桜花賞を勝つだけのものに止まらないことが証明された。

ダイアトニックは、そうした名牝たちに伍して戦える、ロードカナロア産駒史上最強の牡馬となれるチャンスを今回得た。

クリノガウディーには、至上命題である上手に競馬をするテクニックがようやく備わってきたが、グランアレグリアがいると燃えるだけの男でないことを、今後は示さないといけない。

こういう不思議なレースがときたま展開されるのが競馬である。

誰も何も自由にできない時に、そうした世相を反映するような理不尽な結果も、競馬ではよく起こる。

感動のGⅠ初戴冠がモズにもガウディーにも訪れなかったから、今回は見た目よりずっと凡戦と結論付け、またこの豪華な組み合わせでのマッチアップに期待である。

今回走らなかった5歳のトップホースは、半端な馬場と外差し馬場の影響で楽逃げできたライバルに翻弄され、持ち味の総合力勝負向きの才能を全く発揮できなかった。

どうせなら、雨が降った中での競馬の方が、もっとまともな結果だったのかもしれない。

それもまた、世界の空気感と驚くほどに比例したものである。