宝塚記念2016 回顧

昨年はマーメイドSも勝てなかったような馬が、歴戦の古馬ではないにしても、勢いに乗る4歳勢を向こうに回しての大立ち回り。

アクシデントも敗因であっただろうドゥラメンテの末脚は、今までここでよく見てきた、人気馬のあと一歩足らない追い込みで、キレる、迫力を感じさせるものではなかった。

出遅れは問題でもあったが、皐月賞の時より体調がよくないとはいえ、あの脚を使えないほど体調が悪かったわけではない。

キタサンブラックの武豊騎手は、最初のゴール板手前の流れは歓迎であったが、京都ならともかく、阪神の内回りの多頭数の競馬で、ある程度覚悟をしていた淀みない流れの逃げ。

道悪の割には、内はしっかり残る感じだから、時計が速くならないことは確認していたので、ある意味確信をもって、逃げ粘りの態勢を整えた。

それでドゥラメンテに交わされるのであれば、仕方ないと思っていたはずだ。

しかし、追ってきた相手がマリアライトだと判った時は、産経大阪杯のアンビシャス<16着>以上の驚きだったことだろう。

スタートをやや押して出していって、道中も置かれないように蛯名騎手は細心の注意を払って、できる限りのことをしようとしていた。

勝負所でズブいから、昨年のマーメイドSは自分から仕掛けていくスタミナ比べに持ち込んで、伏兵のシャトーブランシュの一撃に苦杯を嘗めることになったのだが、その賞金は、エリザベス女王杯の出走→優勝の流れに大いなる意味を成すのであった。

GⅠ馬になり、今日この日まで、有馬記念ー日経賞ー目黒記念と、昭和のタイトルホルダーの進んだ道のように、軽くない2500Mをひたすら使われてきた。

前走の目黒記念は、今までの自分に足らなかった時計勝負における正攻法の2着。

有馬記念の走破時計を実に2.5秒も更新する素晴らしい内容だった。

言い訳できることはたくさんある。

でも、せっかくベストに近い条件の競馬に挑むのだ。

スイープトウショウが勝った時も、いつもよりはずっと積極的な中団からの差し切り勝ちだった。

王者が必ずしも勝てる競馬ではないが、崩れることもない。

時計が速くなれば別だが、稍重発表でも想像できるように、この時期の阪神らしいタフなコンディションだった。

逃げたキタサンブラックも、自ら先行して時計を作っていくような快速型ではない。

王者には必ずしも有利ではない。

そんな、専門家にとっては有利にもなる条件は、今のドゥラメンテにはあまりに過酷であったのか。

牝馬相手では、道悪にならない限りは、どうしてもキレ負けしてしまうマリアライトは、こうした速い流れだとか、人気馬が今一つピリッとしない走りをするとき、自分にとって最高の花舞台になる。

季節柄、牝馬には厳しすぎる条件になることも多い宝塚記念は、ハイペースの高速決着が歓迎だったスイープトウショウと同じように、みんなのイメージと違うところにいる鉄の女に、これからも見せ場を作るためのチャンスを与えていくことだろう。

4角で誰よりも押していたのが、何を隠そう、マリアライトであった。

じりじりした気持ちで、レース後10分して馬運車に乗せられたドゥラメンテの症状がどのようなものかと思って、わずかながら残る明るい可能性を信じて待っていたが、予後の判断が公表される前にわかることだけ記しておく。

結果はどうあれ、まだ彼について語るべきことはある。その時に触れようと思う。

体調に関しては、すっきりしてしまったというより、検疫ー遠征ーレース<落鉄しての競馬>ー帰国ー検疫と、まだまだキャリアの浅い馬には厳しい3か月を過ごした割に、何とか体面は保てる出来だったように感じた。

無論、猛者の集うGⅠだから、あっさり惨敗もあったのだが、ステイゴールド産駒らしい勝負の嗅覚は、まだこの馬には備わっていなかったのだろう。

スタートは久々に良くなかったし、パドック後半から少しずつうるささも見せていたから、いつも気持ちを馬は作っていったので、下手に行かせるわけにもいかないと、デムーロ騎手も確信をもって、中団後ろからの競馬を選択したのだろう。

道悪の云々は稍重くらいまでは、ドバイでも裸足で走って見せ場を作ったのだから、全く問題ない。

だが、GⅠを戦う中で、メリハリをつけていかなくてはいけない状況で、多頭数を捌く日本競馬らしいタフさが、今回10戦目のドゥラメンテ<この内8戦が15頭以下>には耐えきれなかったのかもしれない。

しかし、それに持ち堪えられるだけのものがなければ、最近、多頭数が当たり前の凱旋門賞に行く意味もない。

初の58が言い訳出来る材料とも、当然なり得ない。

「力及ばず」

キタサンブラックがこんなにもタフな競馬に耐え、マリアライトが最高の渋い末脚で伸びてきた。

速い流れなのに掛かったアンビシャス以外は、実績のある馬が皆上位に来た。

勝てない相手ではなかったが、勝ち切るだけの強靭さが足らなかったので、力勝負でパワー負けして、脚も壊してしまったのか。

いずれにしても、ここから凱旋門賞に行って勝てそうな本格派チャンピオンホースは、残念ながら、見当たらなかったということになる。

マカヒキさん、頑張ってください。