宝塚記念2017 回顧

パドック気配で推せたのはゴールドアクターと、若いけど伸びしろたっぷりのシャケトラ。

前走を衝撃的なレコードで駆けてしまったキタサンブラックは、出来が落ちるような体調ではなかった半面、清水調教師が毎度毎度目一杯の仕上げをさせてきたことに触れていたから、その点で、危なさを出さないように、究極までは追い込まなかったという印象のプラス体重だった。

でも、サトノクラウンもミルコ次第では…。

思えば、ダービーも人気を背負って、馬が気負っていた。

今回とは立場もレースのコンセプトも違うので、やれることの選択肢も変わって当然だが、うまくいくときは何でもうまくいくという感じで、うまく途中から動かしても終いが伸びるように育ててきた甲斐あって、ハイランドリールを負かした時の末脚を今回は引き出せた。

前走は体調も相手の力も、まったく及ばずの完敗だったが、3か月のレース間隔を堀調教師は全て有効に使って、体調だけは元に戻せたのは事実。

だからこその危ない気性の一面を覗かせたパドックでの仕草なのだ。充実の再調整期間がとれたことの証である。

レースは推測されたような流れ。

だいたいは、遅い流れになればそれはキタサンブラックがそれを締めるように、自分の流れに持ち込んだ場合であろう捉えていたのだが、誰もが同じことを考えていたように、それを崩さなければ自分は勝てないと思っているから、福永騎手のシュヴァルグランと前走のような自滅だけはテン乗りでは避けたかったルメール騎手のシャケトラは前に行った。

一方、筆者の栗東調教という幻影に囚われた推挙の一手を土曜夕刻に完全否定され、半ばやけくそになっていたゴールドアクターに関しては、馬場が悪いということを重視したベテランらしい好判断で、横山騎手は終始キタサンマークのオーソドックスな騎乗に、恐らく転じたのではないだろうか。

細々とした策は、鞍上も認めていたようにできないタイプのキタサンブラックは、外から被されることそのものは慣れているから、4角までスムーズに運べれば、あとは何とかなくということだけを考えて、今回も普通に乗っていたのだろう。

が、この日のキタサンブラックは、勝ち気なところがあまり出ていない、彼の日のゴールドシップのような気配にも見えたから、本来格下のサトノクラウンに勝負所の手前から突かれたことで、普通はスイッチが入ってそれをアシストしようとは思っていただろう武騎手のコンピューターが、正常な形で作動することはなかった。

直線に入って、最初からキタサンを負かすにはインを狙おうと、筆者ときっと同じことを考えていたのだろう横山騎手のゴールドアクターは、あえて、馬場の悪い内を突く。

時計は案外速くなる状態だったから、これでキタサンブラックを…。

相手は道悪巧者のGⅠ馬・サトノクラウンであった。

キタサン以外は実力通りの入線で、天皇賞で激闘を演じた組は総崩れ。

ある意味、精神状態が安定している時のサトノクラウンとデムーロ騎手というのは、普段以上の底力を発揮することはみんな知っているから、これに負けるのであれば、キタサンブラックにひれ伏すだけに終わるよりは、仕方ないと思える部分もある。

ある種のおじさん体型に悩みのあったゴールドアクターは、栗東ではなく美浦できっちり併せ馬をこなしているうちに、見事なまでのライザップ体型を手に入れ、鋭さを取り戻した。いや、違う自分に出会った。

サトノクラウンは若い頃から注目された馬で、皐月賞でも人気になったが、血統からも陣営からも華やかさをあまり感じさせないゴールドアクターというのは、いかにもグランプリ要員であった。

ただ、自滅というか、同期のライバルがあまりにも絶望的なレベルの差があったドゥラメンテだったがために、こちらも随分と長い時間、憂鬱のような心の悩みを抱えていたのだろう。

両者、名手がずっと乗ってきたが、調教師とオーナーが考えた末に、ベストパートナーを見つけてきてくれた。

3着ミッキークイーンとは違う、ここまで必ずしも順風満帆ではなかった古牡馬2頭にとって、このレースで得た勝ち方の新たな引き出しは、きっと父になった時にも、産駒の隠れた武器として継承されることだろう。

キタサンブラックは、2年前の東京で、最後は燃え尽きるように直線を全く走り切れなかった。

いつもと同じように見えて、器用にできてしまうことが多いから、他の馬よりも無駄なく走れる分、ツケが回るのも早い。

普通の考え方では、この感じで渡仏は考えられないだろうし、気持ちが上がっていかないだろうが、上位3頭は、皆屈辱的な敗戦を喫した後、復活した面々である。

個人的には、体調に自信が持てるのであれば、渡航の手続きに入るべきだと思う。

この調子で日本で走っても、昨年以上の結果は出せないはずだ。