天皇賞(春)2016 回顧

そりゃ内が有利ですよね、とは言われていたが、サウンズオブアースが思わせぶりの行く気を見せた以外は、終始、内の馬による争い。

武豊が猛ペースを作ることはないが、然るべき流れを作ろうとすることは、ままある。

ただし、先行するのは良くても、単騎で逃げるのはあまり歓迎ではない中で、それでも逃げた、否、逃げないといけないと考えた結果、ジリ脚だけどじわじわ伸びてくる古豪との叩き合いに。

途中で来させなかったのは、鞍上の熟達した騎乗技術があったからこそ。

絡まれるような展開を作ったのでは、それはキタサンブラックの競馬にもならないし、長距離戦のセオリーでは、完全な負けパターン。

でも、この日のブラックは、強い馬と戦い続けてきたタフさが、馬に備わっていた。

叩き合いは決して歓迎ではないカレンミロティックが相手だったにしても、3000M走った後に、一度は差された相手を差し返すのは、彼の成長を置いて、他に理由などない。

昨年のベテランコンビ同様、最後は馬の力を信じられたかどうか、その過程で、いかに馬にストレスを掛けさせなかったか。

長距離戦の勝負の形を後世に伝える乗り方をした名手の判断が、後輩たちの指標となり、まずはそのまねをするチャンスを得ることに、日々の精進を重ねる必要性を感じたことが、敗者の経験値となればいいと思う。

正直、メンバーのが集った割には、強力なパンチを秘めた馬がいなかった印象。

本音を言えば、ユタカ騎手だって、こりゃ参った…、だったはずなのだ。

ゴールドアクターは、枠が外すぎるので仕方ないが、サウンズオブアースが少し積極的に上がっていこうといたことも、それにより、少しだけ前向きになりすぎていたパートナーへの信頼の策が、結果としては、すべて裏目に出たのだろう。

直線で、一度は勝ってしまうかという手応えで、かつて、菊花賞では手も足も出なかったトーホウジャッカルに完全に抜け出されてしまっている。

更には悲しいかな、3番人気シュヴァルグランが内でもたつき、当面の目標であったサウンズオブアースが力及ばずの内容であったのに、自分も失速してしまった。

トーホウジャッカルは仕方ないにしても、アルバートやレーヴミストラルなど、一度は勝負付けを済ませた連中にまで先着を許してしまったのは、流石につらい。

有馬記念で得た栄誉のすべてを、ここで吐き出してしまったような内容だから、もう一度立て直すしかない。

もしかすると、前走のサウンズオブアースをゴール前交わす競馬で反動が出てしまったのか。

それも違う。恐らく、本質的に京都の長距離戦は合わないのかもしれない。

上位勢同様、内枠であれば可能性はあったのだろうが、こればかりは、追われる身だからどうしようもない。

厳しい言葉も耳にするだろうが、命を取られるわけではない。

頑張るのみだ。

スローは見えていたから、差し損ねグループが大半ではあったが、結果的には、日経賞連対2頭以外、ほぼ上位に来ている。

売れすぎの感もあった昨年の2着馬フェイムゲームも、0.5秒差の8着だった。

主要前哨戦は、相応のメンバーが集ったせいで、どれも11頭以下。

どのレースもスローで、納得の結果に終わった。

シュヴァルグランだけGⅠに出たことはなかったが、あとは、何度も経験した馬ばかり。

フルゲートでのレースで、京都外回り戦は内が有利に決まっているから、力がない馬以外は、よほど競馬が上手でないと…。

違う。実力があることを、外から差し切って示している馬でないと、どうしても二番が利かないのだ。

サウンズオブアースが、菊花賞の標準的な2着馬だとすれば、それに遅れたゴールドアクターは、その時の勝ち時計に今度は耐えられるような走りをしないといけなかったが、そのチャンスはなかった。

あの菊花賞が、やはり、トーホウジャッカルが素晴らしい才能を持っていたことを、この天皇賞で再度証明すると同時に、キタサンブラックもまた、古馬との戦いを経て強くなったことを証明し、フロック視をかき消して見せた。

特殊な舞台だからこそ、その過程が重要。

勝ちすぎた、頑張りすぎた菊の敗者は、勝者を再び前にして、また元の立ち位置に戻されてしまった。

格というのは、本来こういうものなのだと思う。