安田記念2018 回顧
炎の連闘が炸裂。
久方ぶりに勝った馬というのは、安田記念では4歳時のウオッカがいる。
古いところでは、同じく連闘で岡部騎手を背に鮮やかに差し切り勝ちを決めたバンブーメモリーや主な勝ち鞍ダートの準オープンのヤマニンゼファーが下剋上を成した例がある。
それら全ての共通するのが4歳馬だ。
今は58を背負わされるから、かつて57で出られた時代のバンブーやヤマニンのような存在は、まず皆無に等しい。
厳しいローテであると同時に、馬に課される負担が二重にも三重にも増えること以上に、相手が海千山千の安田記念。
早々は勝てないタイプの馬が、見事にGⅠ勝利である。
驚きは意外とない一方で、何の不利もなかったスワーヴリチャードやサングレーザー、道中から怪しい気配の厩舎の先輩・リアルスティールなどとは、まるで適性が違うというような勝ち方だった。
モズアスコット。素晴らしいスピードホースである。
父は無敵のミドルディスタンスホース・フランケル。
その日本の代表産駒たるソウルスターリングの主戦であるルメール騎手が、このレースに全く縁のなかったブライアンズタイムの一族に時代のトップサイアーをつけられた良血牝馬の母と、既出の名馬との組み合わせから誕生した天才を駆り、昨春のヴィクトリアマイルで見たような、実に賢いコース取りからの抜け出しで、見事な勝利を飾った。
1400Mでも1600Mでも、条件戦時代から素晴らしいタイムで走っていたモズアスコットは、不思議とルメール騎手が乗ると、その途轍もないスケール感を秘める才能を一端を示すように、これまで極めて優秀な時計を繰り出してきた。
500万①<阪神1600> 1:32.7
1000万①<東京1400> 1:20.4
阪急杯②<阪神1400> 1:20.1
マイラーズC②<京都1600> 1:31.5
そして今回の、
安田記念①<東京1600> 1:31.3
だ。
阪神C④<阪神1400> 1:19.9
という結果は、デムーロはデムーロでも、クリスチャンがテン乗りで普通に乗ろうとしたものの、タイトなコース取りでないとどうにもならない競馬で、それが初の一線級との争いでの結果だから、ノーカウントどころか、見事な才能の一端という意味で、理想的な叩き台になったのである。
3歳春の時点という意味では、アエロリットのこの記録、
NHKマイルC①<東京1600> 1:32.3
クイーンS①<札幌1800> 1:45.7
も負けていない。
ダービーも大阪杯も特別評価される時計での好走ではないスワーヴリチャードは、彼らの持ちうる才能に見事に完封されてしまった。
体調面に問題があったような印象のマイナス体重は、いつもしっかりとしたお腹の作りであったとして、本当に敵う相手だったかと言われれば、正直、疑問符が付く。
サトノアレスやサングレーザーも力は出し切っているだろう。
総合力勝負だけではなく、そこからのプラスアルファのスピード能力が求められた時に、彼らはまだ対抗できるだけの渋とさは秘めていなかった。
芸がない追い上げのようで、彼らの才能を最大限に引き出す好騎乗をしたのは、共に、素晴らしい内容で安田記念を制している名手だ。
1、2着馬には完敗である。
アエロリットという馬は、個人的にとても気に入っているから、今回も本戦に取り入れたわけだが、どうにも、【3202」という戦績が示すような、どうに越えられない壁にいつもぶち当たる傾向がある。
キャラはまるでレッツゴードンキのようになってきた。
そのいい目標がいたことで、天才・モズアスコットが幸運を味方に、素晴らしいGⅠ馬に成長を遂げた。
同父のソウルスターリングは、バランスの取れたドイツ系統由来の正しい血統構成で、オークスを素晴らしいタイムで乗り切ったが、こちらはアメリカ色の強いヘネシーが母父。
ニジンスキーがブライアンズタイムの全姉に配され、その次にミスワキが入ったという積み上げ方は、実は、様々な血を取り合わせることで活力を萎えさせないようにする、アメリカ型の血統馬の作り方の基本形を体現したものである。
血はどこかで交錯するようになるから、アメリカのような競馬大国では、南米の血も欧州の血も出たり出したりを繰り返す。
欧州マイラーは、得てして遅いことが多いが、彼は違う。
アメリカナイズされたことで、しなやかとパワフルさを両立させたのだ。
上がりトップはこれで、全キャリアの半数近くにあたる11戦中5戦目となる。
まるでディープ産駒の成功パターンに近いこういった結果が、サラブレッドの進化に大きく影響を与えるはずだ。
未来に繋がる最終末の春の東京GⅠの勝者は、実に興味深い才能と言えよう。