ノーザンダンサー系の特徴

競馬はブラッドスポーツであり、現在も血統が何より大事と言われるわけですが、これまでで紹介してきた「サンデーサイレンス」「ロベルト」の関係性は、分類上は同系に扱われる一方、人間世界の「親戚」とは意味合いが異なります。

ところが、サンデーサイレンスとノーザンダンサーの場合は、ちょっと違う。


サンデーサイレンスの父であるヘイローと、今回の主役であるノーザンダンサーというのは、正真正銘の血族であり従兄弟同士の関係となります。

大きな親戚の集まり事は、実は、競馬場の中では日常茶飯事ということになりますが、ファミリー、馬の世界では母方が共通と言える血統の場合、その関係がより密になります。


人間同士は密になってはいけませんが、今後も、馬にそれは関係なし。

サンデーサイレンスとノーザンダンサーの関係性は、言わば、名前はうろ覚えで会ったことがないレベルの伯父さんと甥という感じながら、血統表の中にこの両者が入り混ざらないことがまずないというのが、今の日本競馬の実情。


両者の距離感が、本当のサラブレッド「良血馬」という概念にフィットすることは、今後も不変であろうと思います。

ノーザンテースト系の分類は、その直仔<自分の産駒>が世界のありとあらゆる場面で活躍していったことで、種牡馬の数だけ系統分類可能というカオス状態。


その道の専門家でも、データ上で特定の血統を分析する馬券戦略を立てるにも、血統マニアの視点からでも、多種多様な線引きがされる中で、ここはまず、無駄に大鉈を振るう形で、芝向き、ダート向きの本質的な傾向から思い切った分断を図り、その中でイレギュラーなものを浮き立たせるような紹介をしていこうと思います。


まずは、ノーザンダンサーという馬の解説から。

ノーザンダンサー

1961年、カナダ産。
カナダ育ちで2歳のデビュー時から安定した成績で走り、以後よりハイレベルなアメリカへと転戦。
翌年、大一番のケンタッキーダービー<チャーチルダウンズ・ダート10F>を当時のレコードタイムである2:00.0で快勝。
続くプリークネスSも制し、最後の長距離戦・ベルモントS<本来のベルモントパークではなくアケダクト開催>で敗れ…、ということがこの25年後にまた起きる。
ただ、ノーザンダンサーは3歳夏に故障してしまい、現役を引退。

ノーザンダンサー系の最高傑作とは?

超名馬ばかりを産み出してきたノーザンダンサーですが最高傑作とは何なのでしょうか?

それは一般的にはニジンスキーだと言われていますね。

競走成績も種牡馬成績も超一流で名馬中と名馬。
イギリスクラシックの3冠を無敗で達成しています。
まさに最強。

ノーザンダンサーの血の一滴

現在のサラブレッドの多くにはノーザンダンサーの血が入っていると言われています。

ノーザンダンサーの血の一滴は1カラットのダイヤモンドより価値がある。

有名な台詞ですよね。

過去の歴史から現在まで多大なる影響力を与えてきたノーザンダンサーの血ですが、今後も新たな主流血脈に大きな影響を与えていくことは間違いありません。

ノーザンダンサーの歴史

サンデーサイレンスがこのノーザンダンサーと似ているのは、自身がダートでチャンピオンになったにもかかわらず、産駒がいきなり芝で活躍したということです。


何と言っても、初年度から登場したのが、英三冠レースを無敗で制したニジンスキー。これがまた凄まじい。


自身が完全無欠の名馬であったにも拘らず、その遺伝子を引き継いだ者たちが、また判で押したように、どんどん欧州のクラシックレースを勝ちまくっていったのです。

このラインだけでもびっくりするような展開なのに、同時多発的かつ毎年のように、次はリファール、ヴァイスリーガル、ストームバード、ダンチヒ<ダンジグ>、ヌレイエフ、最後の方はサドラーズウェルズ、日本ではノーザンダンサーが直仔、ニジンスキーの最初の世代からはマルゼンスキーなどの後継馬が続々と登場し、世界の競馬界の常識は、ノーザンダンサーのスタッドイン<種牡馬入り>から10年もしないうちに、天と地がひっくり返るように激変してしまうのでした。

北米発信、そこから全世界へ。


来年でノーザンダンサー誕生から60年になりますが、言わば、革命が起きたその時代から、世界の常識に主だった変化のないことが、全てを物語っているのかもしれません。


ベースとする得意条件の要素が、芝とダートで複雑に交錯する世界で、欧州での成功が目立つものを芝向き、北米の特にアメリカのスピード競馬に適性のある本流と言えるものをダート向きとして、まず芝カテゴリー向きのラインから順に、ゆっくりと知見を深めていただくためにも、個別に特性と異色の存在をそれぞれピックアップして参ります。


日本では必ずしも主流ではない系統が、では、どうやって浸透し生き残ってきたのか。


そういった点も、ざっくり分類の紹介の中で、じっくりと読み解いていこうと思います。

ノーザンダンサー系種牡馬の産駒

ダンチヒ系とニジンスキー系を解説

俺たちは速いんだ!!牡馬が走る!!

かんたんな特徴

芝向き

ノーザンダンサー系の初期段階の分類で、その後の影響力と継続性、発展性まで含めて総括していく際、この2つのラインを絶対に無視することはできません。


ある意味、ノーザンダンサーという馬の持つスピード能力を純粋に伝え、段階を経ずして、いきなり結果を出すというのが魅力。


無論、いつまでもそれは続かないから、必ず変貌するシーンを望むことになりますが、そこでこの2系統の運命は分かれたのかもしれません。

ダンチヒ/Danzig

1977年、USA産。英語読みのダンジグ表記も多い。
2、3歳時に3戦3勝。特別なタイムを叩き出したというわけではないが、とにかく、全て圧勝というのはどの記録にも残っている快速ダート馬。故に、すぐに走れる体ではなくなり、81年から種牡馬入り。

初年度から、チーフズクラウンが米クラシック以外のGⅠをガッツリ勝ちまくったのは自然な流れ<ノーザンダンサー系らしいという意>となりましたが、快速の概念が少々異なる芝競馬の欧州圏で、以降は多くの活躍馬を出していきます。
そして、どういうわけだか牡馬の活躍馬が多い。
ということは種牡馬が増える。つまり、後継馬がネズミ算的に増加していくのです。
(長所:圧倒的スピード/ハードも馬場質も問わず、その血統のスピード能力を大きく向上させる)

デインヒル

活躍馬が多いダンチヒの血筋で、直仔の代で目立つ存在ではなかった欧州の短距離GⅠ馬でしたが、祖父のノーザンダンサーと同じ一族という血統背景を活かして、ダンチヒらしさを早い段階からプラスの方向で打ち消した功労者です。
他の血とミックスすることで、その違う方の血統の長所をより強調できるのが強み。
ヘイローとサンデーサイレンスの関係にそっくりで、所謂、ニックス<親和性が有効というような意味>の汎用性が、ノーザンダンサーと同等レベル。
というわけで、芝競馬が中心の英愛の馬産と、種付けシーズンのずれを利した南北半球のシャトルにより、そちらの主要国のスピード型にはこの血は非常に多く組み込まれています。
疑惑の事故死で早逝したデインヒルは、未だ強い影響力を誇っています。

サンデー系注目種牡馬
ミッキーアイル<母父ダンチヒ−デインヒル系>
ダンチヒ系の良さが、サンデー系のキレを殺すこともあるので、代を経ていることで成功も、相性は決して良くない。

ニジンスキー

1970年の英三冠馬。父と同じカナダ産馬の傑作。
英愛ダービー連勝後、キングジョージⅥ&クイーンエリザベスSを挟み、セントレジャーも快勝。
その後、凱旋門賞などは敗れたが、各路線に特化した同期の才能に敗れただけで、本調子ではなかったとされる。

文献をあたっていくと、気性難や案外長い距離向きではなかったというエピソードが出てきますが、産駒にはそういう感じの雰囲気はあまり強く出ていません。
しかし、これほどの傑作の産駒は、得てして、父を超えることなく…、のシーンをファンに見せることが多く、最晩年に父の勝てなかった凱旋門賞を制したラムタラが、4戦不敗で伝説になる以外は、狙いがあったのか、うまくその産駒をお腹に抱えて来日のマルゼンスキー<8戦8勝>が、特に目立つ存在というくらいで、スピード型に出た方が有利という、その他大勢の血の原則通りに、先細りは顕著。
ニジンスキーらしい馬は、ニジンスキーらしくない末裔の中からしか出てこないのでしょう。
(長所:芝のマイル以上の底力勝負で/特に、馬場が渋ると本領を発揮する)

カーリアン

仏ダービー勝ちなどがある一流馬ですが、日英のダービー馬に、凱旋門賞を勝ったマリエンバードなど、ニジンスキー系種牡馬として最も成功した代表すべき後継者でもあります。
注目すべきは、日本に輸入された中からマイルGⅠ勝ち馬が4頭出た事。
実は、マイル戦への対応力を持つ馬だけが生き残っている現状と、マルゼンスキーも2歳のマイルタイトルホルダーということと合わせて、実は、ニジンスキーの本質がこの距離に合っていた可能性を示しているのも、カーリアンの功績と言えます。

サンデー系注目種牡馬
ダンスインザダーク<母父>、スペシャルウィーク<母母父>
サンデーサイレンスがニジンスキーの秘める万能性を引き立て、スタミナ兼備の中距離型を出したが、各産駒は長い距離が合う。

リファールとノーザンテーストを解説

フレンチコネクション

かんたんな特徴

牝馬がよく走る!

長所はガッツのある馬は前へ。

負けず嫌いほど後方からという、極端な競馬での破壊力。

フランス競馬の誇りでもある凱旋門賞は、昔から、牝馬の活躍が目立つレースとして知られます。
当地に縁のある北米産の彼らも、牝馬に必要なスキルをバージョンアップさせる武器をそこで得たのか、それを最終的に日本で走る名馬たちにセットアップしていった、というのは少し偏った見方かもしれませんが、掘り下げるほどそう思えてくるのも確かです。

リファール

『1969年、USA産。ダービー出走のため、ドーバー海峡を渡った以外はフランスで競走生活を送る。GⅠ2勝は、それまでの実績に反する形で1600、1400でのもの。』

リファール系を突き詰めると、その代表産駒であるダンシングブレーヴに凝縮されているとするのが、一般的な解釈。
なので、そちらの解説から。

ダンシングブレーヴ

戦績は分かりやすい。ダービーとアメリカの芝コースで力及ばず以外は、凱旋門賞なども楽勝。
豪快な追い込みで魅了した、未だに世界最強と言われるほどの伝説的名馬。

良くも悪くも、武骨な競馬しかできないのが、リファール系の宿命です。
種牡馬入りして少しすると、ダンシングブレーヴは奇病に罹って、体調万全ではなかったことを好機と、25年ほど前に奇跡的な来日を果たします。
産駒デビューから早々に、徹底先行のキョウエイマーチや末脚自慢のエリモシック、追い込みの勝負手がハマったキングヘイローなどが、普通の策を取らずしてのGⅠ制覇により、前出の印象は日本でも定着していきました。

<サンデー系注目種牡馬>
ディープインパクト、ブラックタイド<この2頭は兄弟>、ハーツクライ

母系にリファールが入ったサンデー系種牡馬は多い
→末脚が魅力のサンデーサイレンスとの相性は抜群で、その後半の産駒ほど破壊力を増した印象。

ノーザンテースト

『1971年、カナダ産。
戦績はリファールを少々下位互換した雰囲気ながら、一応これも仏GⅠ馬。
20戦5勝の字面ほど平凡ではないが、一流競走馬と思っている人はいない。』

早い段階で目をつけ、現役中に日本での種牡馬入りが決まったノーザンテーストは、早々にアンバーシャダイという名馬を送り出したのですが、これが晩成型で、ずっと年下のシャダイソフィアの方が先にGⅠ格の桜花賞馬を制しました。
これが80年代初頭。
これから10年ほどは、この系統の天下で、1990年にクラシック路線に乗ったメジロライアンというスターをアンバーシャダイが出した頃、今度は、数多誕生した牝馬のスターが続々名馬を誕生させるという展開。
直系は絶滅に等しい状況ですが、母系での存在感は、まだまだ健在です。
(長所:上手に丁寧に安全に勝つ馬が出やすい)

メジロライアン

唯一に等しい直系の継承者は、1994年生まれのメジロドーベル、メジロブライトらの3年以上に亘る活躍で、ファンを感動させたわけですが、当時はもう、サンデーサイレンスやブライアンズタイム、後述のトニービンの産駒がターフを席巻していた時代。
自身は、一世一代の宝塚記念快走で名を上げましたが、4年連続GⅠ勝ちのドーベルこそが、ノーザンテースト系のストロングポイントを表しています。
派手ではなく、地道に力を蓄えて、結果を積み重ねるのが本質という血統です。

<サンデー系注目種牡馬>
ステイゴールド(系)<産駒:オルフェ―ヴル、ゴールドシップ>
その他:ダイワメジャー等

気性は悪くても、快速血統ではないので、直線に坂のあるコースに向いている。

ヌレイエフとサドラーズウェルズを解説

かんたんな特徴

芝向き

名血スペシャルの底力・芝への固執がたまに変化する系統

基礎繁殖・ラフショッドから連なるUSAブランドの超A級牝系は、その孫娘・スペシャルを通じ、グローバルスタンダード化していきました。

ヌレイエフ

『1977年、USA産。
クラシック初戦・英2000ギニーは斜行により失格。しかし、その前の2戦はいずれも完勝。病気で早期引退。』

母がスペシャルというバックボーンを活かし、不遇の競走生活からの大逆転に成功したヌレイエフ。
アメリカに帰ってから誕生のシアトリカル、ミエスクら、牡牝の超一流馬が長く活躍することで、種牡馬としての地位を確立し、中期ではフランスのスター・パントレセレブルの破壊的凱旋門賞レコード走にみんなびっくり。
自身とは異なり、産駒の熟成が長いからか、完成期のパフォーマンスがハイレベルというのも、時計勝負への適応力を示す根拠になっているようです。
(長所:大一番で魅せる超高速決着への適応能力/こういう能力は道悪でも同じように発揮される)

ミエスク

ここは敢えて、牝馬から。
本筋ではありませんが、この馬がキングマンボという自身や父と似たトップマイラーを産んだことで、21世紀以降のミスタープロスペクター系<後述>の発展に影響を及ぼしたとしても過言ではありません。
フランスを中心に、マイルGⅠハンターと化したミエスクは、3歳秋に参戦のブリーダーズCマイル<ハリウッドパーク・芝8F>で1:32.8という傑出したレコードタイムで圧勝。
こうした能力が、キングマンボを経て、「キングカメハメハ→ロードカナロア→アーモンドアイ」<ミスタープロスペクター系で詳しく解説>という快速ラインを形成するに至ったのですから、普段はパッとしない馬も多いヌレイエフの血の持ち主の一変ぶりは、とても劇的でもあります。

<サンデー系注目種牡馬>
ゴールドアリュール(系)<後継種牡馬:スマートファルコン>

今後増加傾向の系統
その他:ミッキーアイル<母母父>

サンデーが現役時見せたパワーが極端に引き出されたようで、行って粘るタイプしか走らないが、強気ほど止まらないのはヌレイエフの影響。

サドラーズウェルズ

『1984年、USA産。
ヌレイエフの半姉の仔で、GⅠ3勝は立派も、同父で同期の血統馬・エルグランセニョールの方が目立っていた世代。ここぞの場面では物足りなかった競走馬だった。』

ところが、大西洋を渡って里帰りせずに、アイルランドで種牡馬生活をスタートさせると、驚くほどの勢いでスターホースが輩出し、ヨーロッパの種牡馬や繁殖牝馬の中には、走る馬ほどにサドラーズウェルズが重要なところに配されるという現象が発生。
モンジューや後述のガリレオらが、名馬にして、最高の後継種牡馬になったように、走る馬が走る馬をまた作るというサイクルが、サドラーズウェルズ王国完成の根拠と言えるでしょう。
ただ、この単純な方程式ができたことで、配合相手に課題続出というジレンマ抱えることになったのです。
(長所:基本的にヨーロッパの芝か、それに似た馬場状態のトラックでは無敵)
→日本で活躍の同系統馬・テイエムオペラオー、メイショウサムソンらは、超例外の扱いでいい。

ガリレオ

産駒で初めてダービー<英>を制した馬で、母アーバンシーは凱旋門賞馬。弟には、競走能力でその両者の上をいったシーザスターズがいるという、実に分かりやすい血統馬。
ただ、サドラーズウェルズを完全複製した馬なので、この馬の出現で、サドラーズウェルズパニックを生んだ張本人となってしまいました。
クラシックディスタンス<芝1600 2000 2400M>における、サンデーサイレンス級の存在であり、ガリレオの血が入っていれば走る現象を巻き起こしましたが、今後、サドラーズウェルズがクロスした馬の生存競争が始まった時、どれが生き残るかがちょっとわからないという10年間がスタートしようとしています。

主なサンデー系種牡馬は見当たらないが…、
<超例外:エルプラド>
芝で走って、アメリカで種牡馬入りしたら、メダグリアドーロだけダート競馬の頂点を極めるブリーダーズCクラシックを制し、このラインだけは芝もダートをこなせる。普通のサドラーズウェルズが生き残る道を示した一方、他のエルプラド産駒は芝で活躍した。

ストームバードとヴァイスリージェントを解説

かんたんな特徴

ダート向き

じっくりと速さを育まれたアメ車!

高性能エンジンの使い方の話、ということになりますかね。

ストームバード

『1977年、カナダ産。
いきなりちゃぶ台返しとなるが、この馬自身は、アイルランド調教馬で英2歳芝GⅠ勝ちというノーザンダンサーあるあるの戦績ながら、北米血統とのマッチングとなると…。』

父としての彼を振り返ると、初期の傑作であるサマースコールが米クラシックレース・プリークネスSを制した後に、牝馬にして愛ダービー圧勝のバランシーンの登場という流れ。
これはストームバード系の発展と絡んでくる話ですが、マッチョマンのイメージが先行する系統で、日本に輸入されるこの系統の種牡馬の特性からは想像できませんが、サマースコール→バランシーンの登場順が、偶然ではないと証明したのがその孫だったのです。
(長所:ダートで強気の先行が魅力でも、芝専門の馬が稀に登場)

ストームキャット=ジャイアンツコーズウェイの個性

一応、2歳GⅠ馬というストームバード直仔のストームキャットは、これまでも紹介してきた「一流半競走馬→世界的名種牡馬」の成功パターンを踏襲。
しかし、北米圏からの輸出がメインで、世界中にGⅠ馬を送り出したものの、座して待つというスタンスで、デインヒルなどとは違う成功例でもあります。
その中で、芝で傑出した才能を見せたジャイアンツコーズウェイは、サンデーサイレンス系とストームキャットの入った馬との組み合わせ以外で、九分九厘ダート向きに出るというストームキャットの特性に反し、その産駒で唯一に等しい欧州圏の年度代表馬選出の実力通り、ダート馬がほとんど活躍していないのが面白いところ。

ダートの主戦場である北米でも同じですから、違う品種扱いになっています。
ただし、ノーザンダンサー系の継承者である以上、ダートで走る馬をこの次の代で出せるようだと、ますます発展は見込めそうです。

<サンデー系注目種牡馬>
キズナ、リアルスティール、サトノアラジン・・・全て母父ストームキャット/ディープインパクトの後継種牡馬ばかり

サンデー−ディープのラインに不足する先行力を補強して、大いにスピード能力をアップさせている。とても相性がいいから、父系がサンデーだと、ダート寄りに引っ張られないのも特長。

※コントレイルは母母父がストームキャット

ヴァイスリージェント

『1967年、カナダ産。
自身は脚部不安などもあり、5戦したのみも、一つ上の兄が当地の2歳王者であるヴァイスリーガル。活力漲るノーザンダンサーの直仔では、同世代にニジンスキーもいて、彼もかなりの資質を秘めていた可能性がある』

こちらは正真正銘、北米を拠点にダートの快速型をコツコツ送り込むタイプの系統で、ノーザンダンサーグループのヨーロッパ支部が唯一ないことが、他とは決定的に違うところです。
それにしても、その他の活躍地に挙がる唯一の場所が、日本というのも特異。
日本だと芝をこなすのに、本拠地でその手の馬はまず出世しないので、不思議ちゃんの側面もあります。

競走能力はそこそこのデピュティミニスターが、ヴァイスリージェントにとっての後継者であり、そのラインから、強い二冠馬・シルヴァーチャームを負かしたオーサムアゲイン<ブリーダーズCクラシック>、タッチゴールド<ベルモントS>らの登場と同時に、それらの戦績より遥かに低級の馬から出てきた後継者が、その血を広めていきました。
白毛のユキチャンのファミリーの発展にも、この系統の面白さが見て取れます。
(長所:スピード優先のパワー型/ダート馬ばかりでも、日本の芝だけはこなせる)

クロフネ

父はデピュティミニスター産駒のフレンチデピュティ。
ただ速いというくらいの魅力しかない種牡馬から、2歳時にレコード連発、NHKマイルC完勝、ジャパンCダート<現チャンピオンズC>歴史的レコード勝ちのクロフネが誕生したのです。
その余りの強さから、概念そのものをクロフネに寄せるべきか、ここは自重すべきではないのか、という二択を迫られたほど。
スピードのある馬がすくすく育つというヴァイスリージェント系の強みは、芝の平地GⅠは1200か1600のみという極端な適性と、ダートで中距離までもつのは牝馬かGⅡ勝ち止まりの傾向からも、壁というか、際に至るとそこからは大人しいという面が顕著に出ています。
ダート馬としての資質で、芝をこなすようなイメージが合います。

<注目サンデー系種牡馬>
マカヒキ(予定)/母父クロフネ

ノーザンダンサークロスの呪縛<摩訶不思議>

ノーザンダンサーのクロス馬の適正・傾向と馬券対策

そもそも、一番最初は誰だったのか。 人気の面では、GⅠだと95年の阪神3歳牝馬Sでのイブキパーシヴ<3×5>が、1番人気の一例目。

重要競走では、父内国産馬が1、2番人気になった97年皐月賞で、(父)同士の配馬であるメジロブライト<3×4>が最初だった。

91年のNZTをヴァイスシーダー<4×3>が制したのが、重賞での初勝利記録。 それ以前のJC出走馬なども調べたが、そのほとんどは多種多様な血統が混在していて、インブリード馬すら貴重。ノーザンダンサークロス馬は確認できなかった。

ちなみに、GⅠで1番人気に応えて快勝した最初の馬は、エルコンドルパサー<4×3>(98年NHKマイルC)である。

以降、サンデーサイレンス系の激増による血の飽和が、それと極めて相性のいいノーザンダンサーのクロスを誘発させていった。

ジェンティルドンナ<5×4×5>もハープスター<5×4×4>も、また同系配合馬・メイショウサムソン<3×4>がクラシック競走を勝利して以降では、ノーザンダンサー若しくはその直仔のクロスが父と母を組み合わせで生じた5頭が、ダービー馬となっている。 ジェンティルドンナの場合、リファールのクロス<4×4>もついている。

この傾向は、96年のダービーをフサイチコンコルド<3×3>が制し、クロス馬の走りとも言えるパフォーマンスをみせた後、年を重ねるごとに顕著になっていった。

トウカイテイオー(マイリージャンの3×5)、トウショウボーイ(ハイぺリオンの3×4)なども人気を集めながら、きっちり結果を残したが、1番人気に応えた馬というのは、実はあまり多くない。今は、ほとんどの良血馬がクロスを意識せずともかけられている時代なのにだ。

1960年にこの世に生を受けたノーザンダンサーが、日本で唯一叶えていないのがその人気に応えるという責務。 ストームキャットやデインヒルなど、なかなか日本でのみ走らなかったことも、少しずつ解決された中で、最後の呪縛だけが、永遠の課題を浮き彫りにしている。

クロス馬でビシッとハメたのは、ブエナビスタが最初だと思う。 国内で2番人気での出走になった最初のレースが、引退レース直前のジャパンカップ。そこでは、1番人気での5つの勲章と前年に獲り損ねたもうひとつのタイトルを背に、きっちりアークフィリーらを封じた。 でも、彼女はニジンスキーのクロスだから…。

27頭のノーザンダンサーのクロス馬によるGⅠ1番人気での勝利の記録は、ディープインパクト引退後の2007年から圧倒的に増えた当該馬に限定し、世界中どこかしかのGⅠを制した馬もしくは連対実績を経てという馬を除いてしまうと、実は6頭しか達成していないのだ。 更に、古馬戦に限定すると、驚くことにスリープレスナイトが勝った08年のスプリンターズSのみ。

無論、欧州ではこのようなことはあり得ないし、?馬もクラシックに出られるアメリカでもこんなことはない。日本の芝の競馬だけの傾向。 私見だが、日本だけではそれなりに、まだアウトブリード馬が多頭数の競馬で有利なのだろうと思う。 己の実力が足らなかったからだけではない。