阪神ジュベナイルフィリーズ2015 回顧

ただ一頭、パドックから気配の抜けていたメジャーエンブレムが、今季絶好調のダイワメジャー産駒の勢いそのままに、父のような正攻法からの抜け出しで、圧倒的な存在感を示した。

文句なし。そして、

「ゆくゆくはもっと大きなタイトルを」

はっきりと、勝負ありと断言できる競馬となった。

デビュー当初から、クラシックを獲るためのローテーション、コンディショニングを田村調教師が意識してきた中で、初の関西遠征、初めてのマイル戦での平均的な流れへの対応を求められる、決して楽ではない展開となった今回、残り100Mまで鞭などいらぬという信頼のパートナー・クリストフ・ルメールのアクションの小ささが示すように、血統の持つ底力がより要求される舞台に向く性質をこれ以上ない形で体現し、終始レースをコントロールするのであった。

ウインファビラスが、新潟で出会った怪物を相手に唯一正攻法で戦った経験を活かすように、今回も役者が違う強烈な敵を真っ向から追い詰めるも、結局は、収まるところに収まったような2着。

言わずもがな、この牝馬だってかなりの器のはずなのだが、相手が笑って走っているような感じだから堪らない。

牙を研いで、より鋭さを身に着けない限りは相手にはしてもらえないだろう。

以下、内にささった時点で、勝ち馬とは勝負にならないだろうと直線半ばで白旗を上げてしまったブランボヌールや期待のアルテミスS組で一番頑張って走ったペプチドサプル、もっと相手が楽だったら可能性のあったアットザシーサイドなどなど、走ってきそうな馬はだいたい思ったくらいの力は発揮できたのだが、内有利の馬場を味方につけられなかったアドマイヤリードを始めとして、狂気が自らを苦しめることとなったデンコウアンジュや多数いたステイゴールドの小兵たちは、見せ場を作る場所を作らせてもらえず、掲示板に載ることはできなかった。

まあ、勝ち馬のためのレースということを考えると、その6着以下の組は、自分のパターンになった時に走る傾向にある血統の馬ばかりだから、それはそれで納得であろう。

メジャーエンブレムという馬には、3代続けてJCや春の天皇賞を制した時代の名馬を送り込んだ種牡馬が配されており、少し偏ったステイヤータイプの血統構成で、かつ英国由来のスタミナ豊富な性質を活かして全て勝ち鞍が2000M以上というキャッチータイトルの前時代的な鈍重さを内包しつつ、一方で、父ダイワメジャーのようなマイルのタイトルを正攻法の競馬で3つも獲ったような安定したスピード能力の発揮が可能な側面もあり、今回はそれを示した。

ただ、皆の考えているよりは、ずっと前衛的な彼女の本質は、恐らくだが、父の3つ下の妹にあたるダイワスカーレットの有り余るスピードをフルに発揮する競馬を得意とするのではなく、それを小出しにしながら、相手なりに戦う強かな競馬をできたダイワメジャーのいいところだけを受け継ぎ、スピード型でありながら、母系の血統背景を味方につけたある意味での、

「シンボリルドルフ」

のような万能王者の可能性を感じてならない。

スピード型の父パーソロンと中山が得意なタフネスガイ・スピードシンボリのスタミナ。

どことなく、気性面でも似た性質があって、やはり、基本距離だとみんなが走れる分、隙を見せると負けてしまう部分もあり、それが前回の競馬だったのではないだろうか。

スピード型全盛の時代にあって、その性質が最も近い過去の女王はきっとブエナビスタである。

が、能力の繰り出し方が違う。

ウオッカやアパパネは速すぎた。

だから、メジャーエンブレムが無事成長してくれたら、三冠どころの騒ぎじゃすまない分、競馬が面白くなくなる末恐ろしさも秘めているのだと、この日の走りから感じ取れた。