2019年有馬記念 回顧 - アーモンドアイ、動いた正面スタンド前のその根拠が一体何だったのか?

猛ペースが生んだ驚異の圧勝劇

リスグラシューが強いことはみんな知っていたが、アーモンドアイが惨敗するとは誰も思っていなかった。

速いからみんな仕掛けなかったが、アエロリットが速すぎるので、どこから動いたらいいのかわからない競馬。

思えば、池添謙一騎手が乗っていたオリエンタルアート兄弟が何度となく輝いた舞台。

その乗り替わったことがアンチの興奮を生んだフィエールマンが、まずまず理想の立ち回りをして、流石はグランプリ男という競馬をしたのだが、そういうことが通用しないレースになった。

2頭が、アーモンドアイとフィエールマンがこれから一騎打ちをするぞと思った刹那、ダミアン・レーン騎手とリスグラシューは、理想の中団待機策から、あまりにも手応えがあることもあって、わざわざ大外まで持ち出していた。

実は、勝者の2者はその時点で、その後一瞬で起きる劇的圧勝への展開を理解し、誰よりは早くそうなると悟ったのである。

それにしても、ディープインパクトやオルフェーヴル、シンボリの3頭も異様に強かった有馬という印象が、ファンの年齢問わず、様々な記録として残されていて、記憶もそれぞれに持って入りわけだが、これが有馬記念なのである。

筆者の読みも甘かったと言わざるを得ない。

結局、ここで一番強いのはリスグラシューとしないと、この結果は読み解けなかったのである。

アーモンドアイが後々、故障を理由とする敗因を挙げる可能性はあるが、動いた正面スタンド前のその根拠が、一体何だったのか、ということを突き詰める必要がある。

最近は差し返すのが当たり前だったアエロリットが失速するようなレース。

本質では守備範囲がそっくりのアーモンドアイが、そこで折り合わせることができなければ、必然の結果だったのかもしれない。

フィエールマンも自慢のロングスパートをかけて、しっかりと勝負に出たが、それは相手の手応えが…、というのもあったか。

ワールドプレミアが自信なさげに追い込んできても、しっかりとそのフィエールマンを捉え切っていた。

差し競馬の典型だったが、内から唯一伸びてきた、それでも最後は外に出したリスグラシューだけが、本当に有馬記念らしい戦い方ができたということになる。

スマートに立ち回り、直線で脚を伸ばす。

ひょろっちいバネだけは見どころを感じさせた善戦ガールだった3年前のユタカ騎手や戸崎騎手が乗っていた頃のリスグラシューではなかった、この日のパドック。

人気3頭は、その血統の持つ良さが全て引き出されていた印象で、エタリオウのやる気スイッチが入った時の漲るような好気配も不気味だった。

ただし、レースぶりがそうであったように、リスグラシューの示した完成形の理想そのものと言える、体の内から放つ自信に基づく迫力は、洋行帰りだからそうであるというほど単純ではない。

ディープインパクトもスローペースであれば、最後の有馬記念はあんなに楽勝ではなかったはずだ。

展開は作れなくても、自分が思い通りに動けるようになったことを示す前躯の成長から来る発達が、トニービンを持つ馬が共通して抱える早期の競馬への適応力の不足であり、それが快勝された時の爆発的な才能の発揮に繋がるわけだ。

苦しい競馬を繰り返した後に幸運が訪れる

ハーツクライはディープを公式に唯一負かした馬だが、今回のライバルアーモンドアイには、揉まれた経験は少しあっても、勝負所で外から被される破壊力を発揮する期待には恵まれなかった。

誰よりも苦しい競馬を繰り返した後に、このような幸運が訪れる。

4歳のトップツーには、そこまでの屈辱的な経験が乏しかったのだ。

サートゥルナーリアも東京でひどいセットアップの失敗を経験して、プライドも傷ついていた。

ようやく、真っ直ぐ走ってアーモンドアイと戦おうとした時、自分の外にアーモンドアイみたいなやつがいた…。

有馬記念というのは、ボーナストラックであって、東京で速く走りすぎた馬には苦しい。

リスグラシューが東京で好時計決着の時に、一度も勝っていなかったことがここで活かされるとは、窮屈な解釈も通るグランプリレースらしい結果となった。