チャンピオンズカップ2019 回顧

インティがすんなりと逃げて、ほぼ理想の展開。

一方、試されることがあまりに多かったクリソベリルが、実質的に初めての揉まれる競馬を経験しつつ、強烈な古豪たちのプレッシャーをねじ込むように、ここ2年のチャンピオン級であるゴールドドリームの追撃を、しっかりと最後に突き放して引導を渡して見せた。

正直言って、想像以上に力差があったイメージがする。

完成期のゴールドドリームとて、好位のインから抜け出せるほど、根性の据わった古豪というわけではない。

繊細さよりも、ここ2戦、この日もそうだったが、まだ追い詰めるほどの調教を積ませていないようなところのあるクリソベリルは、やや勝負所で怪しい感じになって、直線は後半になれば独走となるが、そこまではまだ心許ないところを見せていた。

相手がかなり格下で、前走は地方のタイトルホルダーもいたが、ほぼ相手にならないという力差があった中で、結果的に勝っただけで、そこからまた休んで、プラス体重もあって550kgの馬体を自ら使いこなせるかが問題だった。

昨年のルヴァンスレーヴは、似たようなローテで、デビュー当初からほとんど増減なしでここを使われることになったが、クリソベリルに関しては、ほぼ半年ぶりとなった2戦目でプラスの16kgのあと、園田でもっと増やして、2度タフな戦いを経験した時が、その時より少ない体重も、今回一気に超の付く大型馬になって、大一番に挑むことになった。

しかし、前述したとおりに、この馬だけは伸びしろしかないから、その追い詰められていない面に、色々な可能性が詰め込まれていたわけだ。

そしたら、川田騎手もあまり冴えなかった今シーズンのGⅠ戦線だったわけだが、それを見事に打ち破るようにした、あまりにも強い、底力の感じさせる揉まれる競馬での勝利。

ガッツを身上としているようで、馬を大事に扱うことをモットーとする騎乗が川田将雅のスタンスだとすれば、これは挑戦に挑戦を重ねたアクロバティックなアタックである。

心強い雄大な体躯は、ちょっと外を歩くサトノティターンには背丈の関係でさすがに及ばなかったものの、この体を使い切ったのだ。

パワーがあるからこその芸当だが、その本質はミスプロ系の底力を凝縮したエルコンドルパサーという芝・ダート兼用のキングに、芝でもダービー5着の唯一の勲章を利して、同期シンボリクリスエスやアドマイヤドンよりもはるかに柔軟に様々な血を取り込めるゴールドアリュールの傑出した種牡馬としての才能が、このクリソベリルにはすべて備わっているのだ。

1800のタイトルは地方では大井などで行われるJBCレディスクラシックくらいしかないものの、父が中山のフェブラリーSを制し、産駒はこの阪神に移行してから毎年行われるその距離におけるGⅠで、これが3勝目。

そのいずれもが、フェブラリーSも制したエスポワールシチーとゴールドドリームであるから、まだ無敗、そして3歳馬のクリソベリルは、父や祖父の作った名馬の道をより上位互換する格好で塗り替える仕事をやってのけて、何ら不思議はない。

ただ、揉まれても平気だったとはいえ、若い馬が早い段階から時計勝負に対応してしまうと、クロフネやカネヒキリのような展開も想定されるわけで、1:48.5という、阪神で二ホンピロアワーズが記録した1:48.8のレースレコード更新は、決して、歓迎とは言えない。

トランセンドが連覇した時が1:50.6だったから、エスポワールシチーの1:49.9でも速いと言われた10年前のレースと質に変化は起きても、その後の現象にはその差はないと思われる。

力のある馬が全て力を出し、想定されたよりずっと実力を問われた本質的なダートGⅠにおける模範的な結果がもたらされた半面、上がり目を失う馬も当然登場する。

より速く走ることを求めるクリソベリルの課題は、その競走能力を維持する持続力へと変化した一戦となった。