菊花賞2019 回顧

ヴェロックスのインにワールドプレミア。

勝負に負けるというフレーズとは縁遠い男・武豊の引き出しの多さは、言わずと知れたものがあるが、ヴェロックスが比較的やれることが全て出来た状況で、正直、内枠有利のコーナー6つの菊花賞において、最大限のパワー温存と最小限のロスによって、どうしてもだらしないところがあったワールドプレミアの本質的な底力が、120%引き出された。

高馬であり、京都2歳Sにも有力馬として登場しながら、全く良さが出なかったところがあるワールドプレミアは、何かが足らないというか、何も得られないという経験値の少なさが、最大の死角となっていた。

しかし、その経験値は百戦錬磨の武豊騎手が全力でカバーし、友道調教師の優れた勝負レースに対するアプローチの能力を相まって、最高の結論を引き出すことに見事成功したのである。

母マンデラのイメージは、そっくりワールドエースのやや頼りない走りと繋がるものがあったワールドプレミアにとって、最も恐ろしかったのは、揉まれることだったのかもしれない。

多頭数の競馬にすら参加する機会を得られなかった、脚部不安も含めた勝負運のなさは、ここぞの場面で、あれだけいいレースをしながら勝ち切れなかった男・ヴェロックス&川田のコンビとは、見事に棲み分けて見せた。

最後に笑うのは俺たちだ。

昭和最後の菊花賞で初のGⅠ制覇。

平成期にダンスインザダーク、エアシャカール、ディープインパクトといった、時代を彩るサンデーサイレンスの産駒で制し、また元号が変わって、令和は最初のウイナー。

途中から武邦彦の息子ではなく、武邦彦が父であることを後学で扱う基本情報に塗り替えた天才騎手が、野暮ったい現代の高速競馬に、鈍速力で勝負するスターを再び送り込むという名采配を振った。

12-12のラップを超えたタイムなど、ハイペースを利して差したつばき賞の時だけという、実に珍妙なキャリアを持つ彼が、それが当たり前である唯一のGⅠである菊花賞を制した。

先週の強行開催が、こんなドラマまで生むとは、誰も思わなかった。

ヴェロックスだが。

みんなが感じた勝ち味の遅さとは違った理由が、敗因に挙げられる。

ダービーはペースに対するアプローチが正確すぎたために、サートゥルナーリアとの叩き合いに勝負の命運を全てかけすぎたところがあるが、今回は明らかに違う。

決め手比べでもなく、無論、距離相応のスタミナは問われたわけだが、バテたいうよりは走り切れなかった印象。

馬場が半端に重くて、ズブのディープ現役最高クラスの2頭に、油揚げをかっさられた感じか。

皐月賞がああいう競馬だっただけに、惜しいの一語では語彙が足らないのは確かだが、クラシックであれ以上走れる体力というか、理想のプランがまだ不完全ということだろう。

この点は反省材料。

春のクラシックでレースに参加できなかった馬が、レースには参加したけど走れなかった馬とその中で主役級の働きを見せた馬の両方を負かした。

菊花賞では、何度となく見てきた光景。

去年で言うところのブラストワンピースのような存在が、きっとヴェロックスなのだ。

エタリオウはワールドプレミアの枠だったが、こちらは器用さとわずかな1800適性の差が、結果を分けた。

100点満点の福永騎手のサトノルークスは、一時はすべて飲み込んで快勝かというシーンを作りながら、前回以上に口惜しい2着。

思えば、べらぼうに高い値がついた評価は、かつてのサトノダイヤモンドのような、ゆっくり走らせると力を発揮する京都向き、という共通項を今後も繋いでいくのか。

ダービーは今や、高速の1600適性の何かを秘めていないと苦しい。

2000Mで勝てることが重要。

それがフィットしない感じの今年の1、2着のようなタイプは、昨年のフィエールマンのように、これからどんどん長距離GⅠで活躍するようになる。

本質は1800戦のような感じ。

本格派中距離型のヴェロックスには、とても苦しい競馬になった。

その点、この経験は本来の適鞍で活かせるだろう。

こんなところで情けない競馬をしていても、完全格下のディバインフォースやメロディーレーンまで掲示板に載ったようなレース。

ピントがズレた馬が多く来る方が、全体を俯瞰してみた時には、意味のあるレースと言えるのかもしれない。