エリザベス女王杯2016 回顧
内枠の人気馬は、全て出が甘いところがあって、勝ったクイーンズリングは完全に出遅れてしまったのだが、勝負勘鋭いミルコ・デムーロの真骨頂であるスローでの早め進出を内から敢行し、道中動くのは得意ではないディープの人気2頭にはできない芸当で、直線は、このレースの十八番でもある「インからの抜け出し」で、突如として復活したシングウィズジョイが叩き一変で粘るところを差し切った。
目指すべきレースがあって、そこに向かって調整をすることの難しさ。
しかし、プラス10kgのクイーンズリングとて、結果、早く行きたがる性質を抑えることが求められる状況で、スローになったことが勝因でもあるから、強烈な決め手で勝負できる馬でもないことは、返って、鞍上の勝ち気な性格がマッチした、運のある勝ち方である。
そこまで読むことは難しいから、内枠で距離不安をなくすことができるということで、予測はできなくはなかったが…。
スローは判っていた。
ルメールも福永も、強引に行くタイプではないという評価の通りのプリメラアスールの単騎逃げ。
ついていくのは理想形に近い、パワー型で正攻法に勝機を見出すシングウィズジョイのルメール騎手には、これ以上ないリードホースである。
その後ろ、内から仕掛けることのできる機敏さが、ディープの2頭にはなかったから、反応の差も出たように感じる。
このレースは、そういう瞬発力勝負での実績がモノをいうケースが多く、2200、2400Mの連対実績は必須という年が多い。
が、スローに落としてしまえば、その昔のオースミハルカやちょっと前のクィーンスプマンテなど、距離適性が前後して少し怪しいところのある馬でも、何とかなってしまうのである。
人気馬がそういう器用さを求められると脆いと分かっていたこと。
加えて、双方本調子にはまだないという状況。
展開利をどう活かすかを考えて、外差し傾向が例年よりは早めに出始めた京都の馬場なら、シュンドルボンの大外一気も魅力があると思って応援したのだが、開催日直前の雨を考慮した馬場作りの影響か、時計も出やすく、内もまた残りやすい馬場状態で、総合力勝負で決め手比べであれば勝負になっただろうが、上位勢が皆、内を卒なく回ってきた組だけだったから、推して知るべしの6着であった。
この馬は、よく追い込んできた。
その前で勝負に行ったパールコードも、揉まれない強みは活かせたが、総じて、決め手比べに向く馬ではない。距離はいいだろうが、休養と再鍛錬によって決め手を生み出したい。
これも展望は開けた。
問題は、散々人気馬がと言ってきたミッキークイーンとマリアライトだ。
前者は休み明けで落ち着きのまあまあある、勝ち馬と同じ体重増の好気配。
マリアライトは、敢えてハードに攻めて、この後のことを考えないで作ったマイナス8kg。
よく考えてみたら、この季節で4歳と5歳ということを踏まえれば、出来はともかく、成長度合いの差は歴然たるものがある。
作らなくても、ある程度動ける状態にあったミッキーに対し、マリアの方はといえば、シュンドルボンと終始叩き合うことになったように、危惧された通りの反応の悪さが、進路選択に大きく影響を及ぼした。
互いに力を出し切れなかったのは事実だが、上がり目の差は悲しいほど、結果に反映されていたように思う。
勝負に出たのはマリアライトであったが、昨年のように、おもむろに自分のペースで上がっていって、ジワジワ伸びていくような競馬を、このレースで最初から期待するのは、土台無理だった。
ミッキーはまだトータルの余力が残っているが、マリアはそうではなかった。そう考えることも、無理筋ではない。