皐月賞2019 回顧

ピリッとしなかったパドックから、スタート直前の気配。

ここに至るまでの過程が、皐月賞に近づけば近づくほど、サートゥルナーリアとルメール騎手の雰囲気がなんだかおかしかった。

ルメールは前日から、挟まれたり、ぶつけられたり、引っ掛かったり…。

しかし、ホープフルSでもスローの内枠でもみくちゃにされて、様々な課題を一気に解決するように、GⅠを勝ち切ったという実績を、ここでも評価されたのがサートゥルナーリアだ。

総合力で一枚上、距離が多少延びても…。

その距離に目途を立てていたサートゥルナーリアに、弥生賞というクラシック登龍門の出走意義はあまりなかった。

2歳の秋の時点で、中山2000の最も厳しい戦い方をマスターしてしまったのだから。

直線は、彼の日のルドルフ対ビゼンニシキのデッドヒートを思い起こしたオールドファンもいたことだろう。

あれがあったから、無敗の三冠がある。

そういう皐月賞にしたかったサートゥルナーリア陣営は、明らかに、ダービーはおろか、もっと先を展望するような馬の作りに見えた。

角居勝彦の総仕上げ。

その準備段階の一つに、この皐月賞があった。

三冠戦をそれぞれ別の馬で勝っている角居調教師だから、色々な引き出しがある。

ダービーに縁のある武豊騎手が、色々なテーマを課された中で、10年の使用期間を経て、ダービーを5勝するまでの期間は、わずか15年。

それとほとんど同じような時間をかけて三冠戦を何度も勝っているうちに、今最も重要とされる皐月賞をどうやって楽に勝つかというテーマを、今回は完遂したのである。

やや寝ぼけていたような前走時のアドマイヤマーズのように、この先があるとはいえ、あくまで叩き台のレースとしてここに臨んだという作り。

筆者は少しだけ、マイナスの4kgという馬体重が、きっと余計だったような気もしていた。

ここはそういう仕上げで臨むレースではなかった。

自信はあるけど、フルゲートの皐月賞を楽に勝つのは至難の業。

しかし、いくらかこの時期の中山らしく、ちょっと外差しが決まりやすくなった条件下での12番枠は、ラッキーと言える。

マークすべき相手を、仕留めるための選別が自由にできる。

結果的に、頗る好調の小回り巧者に成長したヴェロックスと叩き合うことになったが、自分が仕上がっていないから、ちょっと相手方に迷惑をかけてしまったというだけで、本当のライバルは、結果、自力で驚異のイン強襲で伸びてきたダノンキングリーだったという競馬だった。

贔屓するわけではないが、筆者のPOG馬であるサートゥルナーリアと今回本命のダノンキングリーは、それほど極端なまでの力量差はない気がした。

天才的な3頭であることは、新馬戦やその直後のパフォーマンスを見れば、火を見るよりも明らかなわけだが、独力で2000Mを1:58.1で駆けた内と外の2頭は、言われるよりずっと能力接近で、途轍もない才能を誇るライバルになりうる。

まずはここに懸けたヴェロックスに対し、彼らはゴールの先にある、次なるステージのスタート地点を目指すような走りだったのではないのか。

ちょっと締まった流れを正攻法で抜け出そうとし、周りに敵がいない環境は慣れているが、ガッツリ叩き合う外から伸びる2頭に、単騎の内々追走の底力勝負で勝ち切るのは、先週のクロノジェネシスがうまく馬群を捌けず3着だった競馬より、もっと厳しかったダノンキングリー。

無論、上がりの決め手で限界値を示した上に、外の2頭より楽に抜け出してきたという見立てもあるだろうが、3歳春の中山でのほぼ全力の勝負になったからこその、3頭接戦なのである。

ヴェロックスは仕掛けのタイミングが難しいから、本質的には距離延長歓迎でも、決め手比べで人気2頭には見劣る。

ぶつけられたのは望ましくないことだろうが、厳しい言い方をすると、相手が休み明けだったことを考えたら、ねじ伏せないといけなかったのかもしれない。

でも大丈夫。父はまだまだ、この時期は大舞台で戦えるような馬ではなかった。

この仔はその点、自在さを身に着け、もしかすると、サートゥルナーリアなどよりもずっと成長力を秘めている馬なのかもしれない。

案外早熟に出やすい、母系のドイツ血統がどう出るか。ダービー以降の彼に、まずは注目である。