皐月賞2020 回顧

思わず、天を仰ぎたくなるような2歳王者の片方の位置取りになった。

もう一方の王者はというと、予想よりもずっとスムーズにレースを運びながら、4角ではどこにいるのか一瞬わからなくなった。

勝負所の追い上げは、彼らよりもずっとスムーズに見えたサトノフラッグは、コントレイルに追われるような展開になり、結果的に仕掛けのタイミングが理想より早くなったことで、直線はやはりコントレイルの方が本物だったというような伸びの違いとして現れてしまった。

2000Mをいっぱい使ったせいもあるが、これもいい経験だろう。

本来の行き脚ではなかったが、破壊的なスパート力で3角と4角を瞬間移動したようなコントレイルは、万全の抜け出しとなったサリオスの前に結果誰もいなかったことで、朝日杯の再現を狙った刹那、外から並びかけた。

キレではさすがに及ばないサリオスは、さすがにパワー比べに持ち込めれば面白いという叩き合いの流れまで作ったが、相手が併せてこないような右鞭であったこと以上に、最後は、上手にこそ回ってきたが、初の中距離戦でコーナー4つの競馬も初めてだから、馬自身が自分のスタイルでゆっくりエンジンをかけていく方法しか知らなかったことも、僅かな差での争いで見劣った要因か。

さて、サトノフラッグは疲れていたから仕方ないとか、連続の道悪が快時計連発後の中5週では厳しかったなど、テン乗りのルメール騎手とのコンタクトでまだまだ足らない面はあったとして、では、2歳王者同士の至極の一騎打ちの評価はどうなるかというところ。

今のところ、ギニー競走のスタンスと3歳最強馬決定戦の両面を併せ持つ、ケンタッキーダービーに近い位置づけの皐月賞であるから、そこで力でねじ伏せたコントレイルの底知れないスケール感に、今一度注目が集まることも想像に難くない。

鞍上曰く、こんなような競馬ではなくて…、というのはクイーンC快勝時のミヤビザクラの優勝インタビューと似たような煮え切らない感じは同等に思えたが、一方で、菊花賞に喜び勇んでガッツを出して強気のスパートというタイプではないから、普段から強気の矢作調教師のようには甲高いラッパを吹かない福永騎手が、わずかながら荒れ馬場も気にした面もあったと語りつつ、明らかにダービーを意識し直したようなコメントは、非常に珍しいと思った。

斟酌するならば、アクシデントではないけどうまく行かなかった今回のこの結果は、ルドルフだとかディープだとか、そういうクラスのイメージで乗っていた側とすると、勝つのは当然として、彼らが大いにハッチャけた皐月賞であったのに、皆がそんなことを忘れているように、これでも勝てるならば、サリオスのような位置取りをできたならば、もう一つも十分に勝ち獲れるという確信めいたものが得られたと、筆者は読み取った。

改めて作り直し、また、アクシデントが調教の過程でも普通に起こり得る若駒のこと、滅多な勝利宣言など御法度なのだが、皆さん、ついてきてごらんなさい、という感じもした。

クレヴァーな福永騎手が、ダービー制覇時に少年のような仕草と言葉で感動を皆に伝えたのとは違い、直線の加速力一つとっても、他の馬と違うんだよと、図らずもそれを証明できた皐月賞で、ドゥラメンテのデムーロ騎手だって感じただろう、全く違う才能に対して、ダービーで余計なことをしてならないという証拠が、勝ちながらに得られたことの特別感は、どんなに慎重な言葉選びをしたとて、にじみ出てしまうもの。

直線勝負でも敵わないのが、今のコントレイルなのだとしたら、きっと再戦希望の人気勢と、もっと違うアプローチで戴冠を目指す面々からすると、返って、戦略の練り直しが必要になった一戦にも思える。

そうはならないだろうという展開で、結果的に、昨年のサートゥルナーリアのような競馬の内容で、無敗ロードを続けた。

サリオスの末恐ろしい成長力も侮れないが、無事ダービーが開催されたとて、真のライバルは自分自身であると、この皐月賞でコントレイル陣営は自信をより深めたはずだ。

あの弾むようなパドックの歩様は誰に似たのだろうか。

体つきや仕上がり度合いは、人気馬の体形の違いこそあれど、どれも素晴らしい状態に映ったが、あんなにキレイに休み明けでパドックを闊歩し、誰にも身につけられないような品を感じさせるのは、トウカイテイオーがそうであったように、やはり、血が成せる業なのだろう。

サトノフラッグは何も悪くないが、コントレイルのあまりにも完成された体つきに、負ける雰囲気が全く感じられなかったのは、筆者だけではないと思う。