天皇賞(春)2019 回顧

スムーズにレースを運ぶことの重要性は、前日の青葉賞でより深く理解し、この日も強かに、自分の持ち味をどうこうではなく、相手の実力を試すような正攻法の抜け出しをルメール騎手は選択し、天才・フィエールマンが、またしてもキャリア最少記録を更新するGⅠ勝利を挙げた。

そもそも、ダービーに挑むまでのキャリアでも何ら不思議ではない5戦の選択が、レースに合わせてではなく、自身の出来に合わせて、こうしてGⅠを二つ獲ったのである。

グローリーヴェイズの戸崎騎手は、完全にテン乗りだっただけでなく、乗る予定だったシャケトラの事故死に川田騎手の騎乗停止が重なった上でのオファー。

その中で、様々想定していたシャケトラの場合を適応するわけもなく、エタリオウの追撃に対する柔軟な対応は完璧だったが、返って、フィエールマンの底力を引き出したのは誤算。

菊も上手に外枠をこなし、ハードな上がり勝負にも対応していた。

共に休み明け、一時は交わそうかという気配もあったが、こういうレース、意外と前の馬の方が渋とい。

今日のルメールは、来週の戸崎の出番を予期したものとなるか。

こちらも関東馬で、キャリア7戦である。互角だろう。

スムーズにやるべき仕事を果たしたパフォーマプロミスの北村友一騎手も立派。

まだまだ若いこの7歳馬は、いかにも藤原英昭厩舎という巧みなレース選択の末、昨年5戦のみという重賞の使い方が、それでもGⅡ2勝だったくらいで、本来はもっと支持されていて然るべき存在。

筆者は年齢で切ったが、この馬もまだ今回で18戦目だった。

使わずにここへ、は同じだったエタリオウは悩ましい。

前半の流れの読みも中だるみも、ミルコの思った通りである。

しかし、真ん中だけが極端に遅い展開で、休み明けのフィエールマンらには、気性面の不安があまりなかったことも手伝って、結果的に正攻法でじっとしていた方が有利という不運の流れとなってしまった。

思えば、和田竜二がヴォージュに乗っているのだ。

芝もダートも長距離はうまい。

ある意味、へぐったとオーナーの逆鱗に触れた99菊花賞くらいしか、残念な騎乗はない。

20年前の話。横山騎手を翻弄するなど、やはり、彼も名手である。

狙いはエタリオウと同じだったはずの岩田騎手のユーキャンスマイルは、謎の体重増がパドックから気になっていたが、左回り云々以前に、4歳勢の中で最も決め手に乏しい面がある馬。

ディープなデッドヒートにも、エタリオウにさえもついていけなかったから、こちらは本来は、叩き良化型という印象を持った。

東京の時は素晴らしい出来に見えたが、その頂点がこちらにならなかったのは至極残念だ。

さて、フィエールマンさんの今後についてなのだが。

筆者は去年彼が2勝目を挙げた頃から、その存在を知りつつ、福島のあの惜しすぎる2着を振り返り、菊花賞など目指さず、今年のJC辺りを狙えばいいと回顧で記した。

中山で2勝目を挙げ、それから1年と少し。

彼はGⅠを二つも勝ってしまった。

陣営としても、あまりにも急なことだったはずだ。

それなりにキャリアを積み、GⅠを使うことには慣れて来た手塚師でさえ、恐らく、まだ全容も知れずに安定の3か月開けローテの選択を続けているが、その完成期はもはや、誰にも分からないのではないだろうか。

面白い存在は、すぐにGⅠ馬になり、注目される存在が異例のローテで春天も勝った。

が、これも全力ではないだろう。

少し、馬体の印象が寸の詰まった感じに見えなくもなかった。

渡仏なら、次はフォア賞だ。

異例のローテを取るにも、前哨戦は挟むしかない。

スピード型でも、日本の58をこなしたのは偉いと同時に、牝馬のようなキレを要求しないと、彼の良さは活かせない。

ルメール騎手は乗れないだろうし、それが陣営の望みと合致しない鞍上の選択も、恐らくしてこない。

こういう馬こそロンシャンに行くべきなのだが、色々と凄すぎて、何だかついていけないところは、アーモンドアイ以上のものがある。

そうこうしているうちに、ルメールは旧八大競走を完全制覇していた。いやはや、恐れ入った。